今回は、ザ・ゴールの要約と書評です。
中小企業診断士試験においては、運営管理の科目の理解に役立つとも言われている本ですね。
本書は、生産管理のイメージを小説風にわかりやすく掴めると評判の本ですが、500ページを超えるボリュームがあり、受験勉強をしながら読むのはなかなか大変です。
そこで!サクッと要約をしたいと思います。ちなみに時間が無いけど理解を深めたい人へは漫画版もオススメです。
漫画版では舞台が日本になっている為、よりわかりやすく読み進められます。
目次
SCMを理解して生産管理のイメージを掴むのに絶好の本
中小企業診断士の運営管理の科目では、製造業における生産管理が大きなテーマとなっています。
製造業において、いかにして効率をよく生産していくか、その為にボトルネック工程、ラインバランシングを検討していくなどなど、もともとお仕事で生産管理に関わることをされている方、特に工場で働いている方にはイメージしやすいことかなと思いますが、そうでない方にはなかなか理解しにくい部分かと思います。
僕もまさに理解しにくかったタイプで、生産のラインを効率化して作業を改善するなどと言われてもなかなか具体的にイメージできなくて理解に苦しんだ記憶があります。
この本は、SCM(Supply Chain Management)の概念を取り上げながらも小説風に書かれていて、生産管理のことが全く分からない受験生がイメージをつかむのにちょうど良い本です。
できれば運営管理の勉強を始める前に出会えればよかったなあと思うくらいでした笑
生産管理の理解を深めたい方にはあもちろん、これから受験を検討されている方にもオススメです。
導入部分と問いかけ
本書はストーリー形式で、メーカーの工場で所長をつとめる「吾郎」が主人公です。
物語は主人公が上司から納期遅れを指摘され、工場の赤字を改善できなければ3ヶ月で工場は閉鎖だ!と宣言されるところから始まります。
そして苦悩する主人公は偶然にも空港で、大学時代の恩師「ジョナ」に再会します。
仕事の内容や悩みを相談する中で、吾朗はジョナから幾つかの質問を受けます。
- 生産的であるとはどういう意味なのか?
- 企業がなしとげるべき目標(ゴール)は何か?
- 企業の目標を測定する3つの指標は何か?
- 依存的事象と統計的変動(つながりとばらつき)という2つの事象の組み合わせは何を意味するか?
- ボトルネックを最大活用する為の2つのポイントは何か?
吾朗は仲間たちとアイディアを出し、試行錯誤しながらこれらの質問へ順に回答をだしていきます。
そしてさらに具体的な対策を2つ見出します。
- ドラム、バッファー、ロープが重要である
- 制約に集中し全体最適を実現する5つのステップ
これらの質問への答えと答えを導く考え方やプロセスこそが本書の要約となります。
ちなみに主人公は答えをだす為に仲間と苦労しながらも、奥さんや家族との板挟みにも軽くあったりします。
これも見どころの一つかもしれません。笑
以降では上記の質問への答えを書いていきます。本のネタバレとなりますのでご注意下さい。
※わかりやすくする為、一部漫画版の舞台を前提として書いています。
生産的であるとはどういう意味なのか?
新しい機器や技術を導入することで工場の生産性が工場したなど、生産性が工場したという言葉は使われます。
計算式としては、付加価値額などから割り出す方法がありますが、本当の意味で生産的であるとはどういう意味なのでしょうか。
生産的であるとは、目標と照らし合わせて「何かを成し遂げること」を意味しています。
そして企業は目標(ザ・ゴール)という観点で、成し遂げたかどうかを測る必要があります。
生産性とは、目標に向かって会社を近づける行為そのもので、反対に目標から遠ざける行為はすべて非生産的です。
つまり目標がはっきりわかっていなければ、生産性という概念は全く意味がなくなります。
本当の問題は生産性があがらないことではなく、目標が何なのかよくわかっていないことなのです。
企業が成し遂げるべき目標(ゴール)は何か?
企業の目標は効率的に製品を作ることか、マーケットシェアをあげることか、そのような指標は数字や言葉で遊んでいるだけで目標ではありません。
どんな会社であっても目標は同じでひとつしかありません。
企業の目標(ゴール)は、お金を儲け続けることです。
それ以外の全ては目標を達成するための手段です。
効率的に製品を作ることも、マーケットシェアを上げることも手段の一部にしか過ぎません。
では会社が儲かっているかを測定する指標はなんでしょうか?
主人公は答えを求めて会社の経理課長に相談をします。
経理課長は全社的な目標をチェックする指標として、純利益、投資収益率、キャッシュフローといった指標を教えてくれますが、
吾朗にとって「工場のどの行動がそれらの数字に関わってくるか」がわかりません。
工場(現場)において、必要な指標はいったいなんなのでしょうか。
企業の目標を測定する3つの指標は何か?
吾朗の恩師であるジョナは、目標の達成具合をチェックするための指標として、3つの指標を開発しました。
- スループット
- 在庫
- 業務費用
上記の3つです。
スループットとは
スループットとは販売を通じてお金を作りだす割合のことです。
生産しても売れなければスループットではありません。
「生産」を通じてではなく、「販売」を通じた顧客に売れたお金であること(入ってくるお金)、がポイントです。
在庫とは
在庫とは販売しようとするものを購入するために投資したすべてのお金のことです。
製造プロセスの中に溜まっているお金であると言えます。
業務費用とは
業務費用とは在庫をスループットに変えるために費やすお金のことです。
スループットを稼ぐために出ていくお金です。
工場での労働時間も手待ち時間も業務費用です。機械やロボットは売れるならば在庫として扱います。
お金を払って得たもののうち、売れるものが在庫で売れないものが業務費用という整理になります。
ジョナはこれら3つの指標で工場のすべてを測ることができると言います。
依存的事象と統計的変動(つながりとばらつき)という2つの事象の組み合わせは何を意味するか?
ではバランスのとれた理想の工場とはどのような工場でしょうか?
ここでは依存的事象と統計的変動(つながりとばらつき)の組み合わせが意味することとあわせて説明していきます。
バランスのとれた工場」とは
バランスのとれた理想の工場とは、すべてのリソースの生産能力が市場の需要と完全にバランスがとれている工場です。
市場の受容とバランスがとれていれば、生産能力の不足が原因で販売機会を失うことも、能力が余ることでお金を無駄にしてしまうこともないからです。
ではなぜこのような完全にバランスのとれた工場は存在しえないのでしょうか。
ジョナは、バランスのとれた工場ほど倒産に近づくからであると説きます。
例えば人を解雇して改善させようとすると、業務費用こそ減るものの、スループットも減り在庫が増えることが実証されています。
その理由が「依存的事象」と「統計的変動」の組み合わせです。
依存的事象と統計的変動とは
依存的事象とは複数作業の前後関係です。
例えばA工程とB工程の作業がある場合に、A工程が終わってからでないとB工程に着手できない場合は、B工程はA工程に依存しています。
統計的変動とは同じ作業にも時間のばらつきがあることです。
同じ作業でも人によって完了するまでの時間にはばらつきあります。運営管理の科目でもサイクルタイムという考え方がでてきますね。
この2つが組み合わさることで、リソースの能力を個別に評価し抑えると全体の目標が満たせなくなってしまいます。
全体の目標を満たすためには、余分なリソースはあっても良いことを意味します。余分は出ても仕方がないのです。
そこで今度は、工場のリソースをボトルネックと非ボトルネックに分ける発想が登場します。
ボトルネックを最大活用する為の2つのポイントは何か?
「ボトルネック」とはボトルのすぼまった部分をさすことが語源で、その処理能力が与えられた仕事と同じかそれ以上のリソースのことです。
ボトルに大量の飲み物が入っていたとしても、流れる部分が細くては一定の少量しか流れません。
「非ボトルネック」とは与えられた仕事量より処理能力が大きいリソースです。
ボトルネックとは逆に大量に流すことができます。
工場の能力を決めるのはボトルネックのリソースの為、ボトルネックを通過する処理量を市場の需要に合わせることがポイントとなります。
具体的にボトルネックを活用する方法は2つあります。
1つはボトルネックの時間のムダをあらゆる方法で無くすことです。
従業員が交代で休憩するなどの工夫によって機械の停止時間を最小にすること、すぐ売れる見込みのない部品を作らないことなどです。
もう1つはボトルネックの負荷を減らして生産能力を増やすことです。
下請けへの委託や以前に使っていた停止している機械を再稼働させるなどの方法が考えられます。
ドラム、バッファー、ロープが重要である
吾朗は仲間と相談し、試行錯誤しながら具体的な施策を考え出します。
それがドラム、バッファー、ロープという、ボトルネックのペースに合わせて資材をタイミングよく投入する方法を例えで表現したものです。
「ドラム」はボトルネックのペースに合わせて出す資材投入の合図です。
「バッファー」は納期を時間で保護する時間のゆとりです。
「ロープ」は早すぎる資材投入を防ぎ工場全体の在庫量を決めます。
つまりドラムで合図をしたとしても資材投入が早まってしまうのを防ぐのにロープでつなぎます。
最後に全体にゆとりを持たせるべくバッファーを持つことで納期を守ります。
吾朗たちはこれらを実行して納期遅れを解消するだけでなく、工場の黒字を達成しました。
制約に集中し全体最適を実現する5つのステップ
物語が進むにつれて、ボトルネックという呼び名は、「制約」という表現のほうが適切と認識されていきます。
工場の一連の生産工程は1本の鎖のようなもので、一つ一つの輪がつながって1本の鎖を作っている。
鎖にとって重要な鎖の強度(スループット)をあげるには1番弱い鎖の強度が重要である。
そして鎖の中で最も強度が弱い輪がボトルネックなのです。
工場がスループットを増やす為にはこのボトルネック(制約)を見つけていく努力が重要です。
そして、制約を高めるために集中して取り組む「5つの集中ステップ」が明らかになります。
吾朗たちが取り組んできた制約を見つけて改善するためにたどったプロセスは以下のステップで説明できます。
- 制約を見つける
- 制約をどう徹底活用するかを決める
- 他のすべてをステップ2の決定に従わせる
- 制約の能力を高める
- ここまでのステップで制約が解消したらステップ1に戻る
これらを繰り返すことでスループットを向上させ続けることができるのです。
鎖のようにつながりとばらつきがあるシステムには必ずどこかに制約があります。
その制約に集中することが全体最適になる、これこそが全体最適のマネジメント理論、TOC制約理論なのです。
物語の結論とまとめ
吾朗たちは5つのステップを理解することで、自分たちの決定してきた内容にもさらなる改善点があることに気づきます。
5つのステップは継続的改善のガイドになるのです。
ザ・ゴールの要約は以上となります。
生産管理や製造業の現場を理解できることはもちろんですが、つながりがある作業やシステムにおいてのプロセスの改善を意識することができるようになる、素晴らしい内容の本であると感じました。
自分の今やっている仕事の「ザ・ゴール」(目標)に対してぶれていないかどうか。
生産性のチェックや効率的な時間術に読み替えて理解することもできそうです。
工場のボトルネックを人の活動のボトルネックと読み替えれば苦手なことは、人に頼む(外注化する)とか。
人との約束を守ることができないのは、リードタイムが長いからではないか。
そんな風にチェックするとまた面白いかもしれません。
要約を読んで興味を持って頂いた方は是非、一度読んでみてくださいね。